奪われるその6
ゆうくん
2005年01月02日
3,428
バスタオルで全身を拭う。すでにエアコンの冷気で部屋の内部は快適な気温になっていた。
美奈子は下着を出して身に着けるとパジャマを手に取る。
今夜は早く寝るつもりである。明日も仕事だ。
浴室の明かりが消えたとき、安西はカメラのレンズを二階の寝室に向けた。
風呂上がりの美奈子が、すぐに寝室に行く習慣があるのは、この何日かの張り込みですでに判っていた。
家の間取りは依頼主の敏恵から提供されていたので、美奈子がどこで何をしているのか、安西にはだいたい把握することができるのだ。
寝室の窓はまだ真っ暗だった。安西は明かりが点灯するのを待った。
やがて、パッと長方形の窓が明るくなった。美奈子が寝室に到着したのだ。
早速カメラを覗き込む。
その瞬間、安西の目が大きく見開かれた。
「‥‥うっ?」
普段の寝室は固くカーテンが閉じられていて、決して室内の様子が外に漏れないようになっている。しかし今夜は違った。カーテンが窓の半分しか覆っていない。しかも網戸が嵌め込まれていないので、室内の光景が丸見えになってしまっている。
それにも増して安西に衝撃を与えたのは、寝室のドアのところに立つ美奈子の官能的な姿だった。――なんとバスタオル一枚を身体に巻いただけなのだ。
地上に立つ安西が二階の寝室を見上げている。多少距離が離れていても、基本的には構図はローアングルになる。その上、窓の敷居が邪魔をして、カメラのファインダーには美奈子の上半身、ヘソがあるであろう位置までしか映っていない。それでも美奈子がバスタオル一枚なのは容易に想像できる。
――いかに風呂上がりとはいえ、少々無防備すぎないか。
安西は軽く唾を飲み込みながら思った。
――誰かに覗かれたらって考えないのか。‥‥ああ、そうか、周りに人の気配がないから安心しきっているんだな。しかし、女ってのは独りになるとけっこう大胆になるもんだな。
安西はやや粘着性を帯びてきた視線を、美奈子の扇情的な姿の上に這い回す。バスタオルを高々と内側から押し上げる双つの隆起と、布の上からでもわかるウエストの深いくびれは、安西の男としての欲望を刺激せずにはいなかった。
離婚以来、数年に渡って安西の性生活は満足のいくものではなかった。もともと性欲の強いタイプだったのだ。時折は金で欲望を処理することもあるのだが、安月給の身ではそうそう悪所に通うわけにもいかない。自然、性に対する欲求は蓄積され、ダムのように溜め込まれていく。
美奈子の解放的な姿は、そのダムの水門をも“解放”しようとするかのようだった。
安西は頭を振って、台頭し始めた淫らな欲望を振り払おうとする。
――あの女はターゲットだ。そして俺は調査員だ。妙な考えは抱くな。
安西は深呼吸を一つすると、再びカメラを覗く。ドキンと心臓がはねた。美奈子が窓に向かって歩いてくるのだ。カーテンを閉める気だろう。
が、窓に来る途中で美奈子は立ち止まった。微かに身をかがめ、何かを手に持ったらしい。腕を伸ばして何か操作している。
――エアコンかテレビのリモコンだな。
しかし、うまくスイッチが入らないのか、何度も腕を伸ばして操作している。
次の瞬間だった。安西の全身を新たな衝撃が貫いた。
「うおおっ!!」
美奈子の身体からバスタオルがはらりと落下したのだ。雪のように白い裸身が露わになる。
安西は反射的にカメラのシャッターを切っていた。
カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ。
モータードライブが作動し、連続してシャッターが切られた。
美奈子の頭からヘソの辺りまでの裸身がフィルムに焼き付けられる。
華奢な肩、豊満で上向きの双つの隆起、初々しい乳頭、魅惑のウエスト、縦長のヘソ。美奈子が日頃、服の下に隠して他人の眼には触れさせない女の秘密が、フィルムという形に変換され、安西の手の内に転がり込んできたのだ。
が、美奈子最大の秘密は、いまだ安西の目にもカメラのレンズにもその姿をみせていなかった。やはり窓の敷居が邪魔をしたのだ。あと一、二歩、美奈子が窓に近寄れば、両の太ももと下腹部が形成する三角形の丘の部分が露出するのだが。
――あと数歩、裸のまま窓に近寄ってくれ!
安西は心の中で懇願する。しかし美奈子は彼の期待を裏切る動作をした。かがみ込んでバスタオルを拾う仕草をする。そして美奈子が上体を起こしたときには、片方の手にそれが握られていた。
安西は落胆した。美奈子は再びバスタオルを身体に巻きつけるだろう。バスタオルを巻いてしまえば、たとえ窓に近寄っても美奈子の肝心の部分は布に隠され、眺めることも撮影することもできない。
「うっ!」
またしても美奈子は安西の予想外の行動に出た。なんとバスタオルを手に持ったまま、全裸の姿を窓に近づけたのである。
そして――とうとうその瞬間が訪れた。
美奈子の女の茂みが窓の敷居の上へ姿を現したのだ。小判形をした淡いくさむらを乗せた三角形のなだらかな丘の部分が、安西の目に飛び込んできた。
しかも、奇妙なことに、窓ガラスの前に立った美奈子の裸身が明るく発光したのである。そのため身体のディテールがクッキリと映し出された。
本来なら天井の照明を背にしているのだから、逆光にならなければならない。
逆光では美奈子の身体の前面は影になるはずだ。
これはすでに述べたように、偶然のもたらした産物だった。窓の横に置かれた姿見が、天井の明かりを反射して美奈子の身体を斜め前方から照らし出したのである。いわばプロの写真家が撮影時に使用するレフ板と同じ働きを、姿見は務めたのだ。――美奈子にとって大変不運な、安西にとって大変幸運な、偶然の出来事だった。
美奈子の肉体はその全貌を安西の前に晒した。
安西はシャッターを切る。再びモータードライブの乾いた動作音が立て続けに周囲に響く。
すぐにカーテンが引かれるものと覚悟したが、なぜか美奈子はすぐにはそれをせず、窓ガラスの前で棒立ちになっている。
――何をしているんだ?!
疑念が脳裏をよぎるが、チャンスはチャンスだった。安西はバズーカ砲のような高級ズームレンズを操り、美奈子の下半身の暗がりをファインダーのど真ん中に捉えると、ぐっと倍率を上げた。
ぐんぐんと美奈子の女の部分が拡大される。ファインダーいっぱいに楕円形の茂みが映し出された。高級ズームレンズの冷徹な目は、秘毛の一本一本に至るまで、克明に解析してしまう。
三回目のシャッターが切られ、モータードライブが作動、美奈子が夫以外に決して見せることがなかったであろう秘所のたたずまいを、フィルムの上に次々と記録していった。
その直後、美奈子の手によってカーテンが引かれた。寝室の内部と外部は遮断されてしまう。もう部屋の中は見えない。
安西は、それを確認すると、今まで呼吸を忘れていたかのように、長い空気を吐いた。いつの間にか体中が汗で濡れていた。
美奈子は下着を出して身に着けるとパジャマを手に取る。
今夜は早く寝るつもりである。明日も仕事だ。
浴室の明かりが消えたとき、安西はカメラのレンズを二階の寝室に向けた。
風呂上がりの美奈子が、すぐに寝室に行く習慣があるのは、この何日かの張り込みですでに判っていた。
家の間取りは依頼主の敏恵から提供されていたので、美奈子がどこで何をしているのか、安西にはだいたい把握することができるのだ。
寝室の窓はまだ真っ暗だった。安西は明かりが点灯するのを待った。
やがて、パッと長方形の窓が明るくなった。美奈子が寝室に到着したのだ。
早速カメラを覗き込む。
その瞬間、安西の目が大きく見開かれた。
「‥‥うっ?」
普段の寝室は固くカーテンが閉じられていて、決して室内の様子が外に漏れないようになっている。しかし今夜は違った。カーテンが窓の半分しか覆っていない。しかも網戸が嵌め込まれていないので、室内の光景が丸見えになってしまっている。
それにも増して安西に衝撃を与えたのは、寝室のドアのところに立つ美奈子の官能的な姿だった。――なんとバスタオル一枚を身体に巻いただけなのだ。
地上に立つ安西が二階の寝室を見上げている。多少距離が離れていても、基本的には構図はローアングルになる。その上、窓の敷居が邪魔をして、カメラのファインダーには美奈子の上半身、ヘソがあるであろう位置までしか映っていない。それでも美奈子がバスタオル一枚なのは容易に想像できる。
――いかに風呂上がりとはいえ、少々無防備すぎないか。
安西は軽く唾を飲み込みながら思った。
――誰かに覗かれたらって考えないのか。‥‥ああ、そうか、周りに人の気配がないから安心しきっているんだな。しかし、女ってのは独りになるとけっこう大胆になるもんだな。
安西はやや粘着性を帯びてきた視線を、美奈子の扇情的な姿の上に這い回す。バスタオルを高々と内側から押し上げる双つの隆起と、布の上からでもわかるウエストの深いくびれは、安西の男としての欲望を刺激せずにはいなかった。
離婚以来、数年に渡って安西の性生活は満足のいくものではなかった。もともと性欲の強いタイプだったのだ。時折は金で欲望を処理することもあるのだが、安月給の身ではそうそう悪所に通うわけにもいかない。自然、性に対する欲求は蓄積され、ダムのように溜め込まれていく。
美奈子の解放的な姿は、そのダムの水門をも“解放”しようとするかのようだった。
安西は頭を振って、台頭し始めた淫らな欲望を振り払おうとする。
――あの女はターゲットだ。そして俺は調査員だ。妙な考えは抱くな。
安西は深呼吸を一つすると、再びカメラを覗く。ドキンと心臓がはねた。美奈子が窓に向かって歩いてくるのだ。カーテンを閉める気だろう。
が、窓に来る途中で美奈子は立ち止まった。微かに身をかがめ、何かを手に持ったらしい。腕を伸ばして何か操作している。
――エアコンかテレビのリモコンだな。
しかし、うまくスイッチが入らないのか、何度も腕を伸ばして操作している。
次の瞬間だった。安西の全身を新たな衝撃が貫いた。
「うおおっ!!」
美奈子の身体からバスタオルがはらりと落下したのだ。雪のように白い裸身が露わになる。
安西は反射的にカメラのシャッターを切っていた。
カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ。
モータードライブが作動し、連続してシャッターが切られた。
美奈子の頭からヘソの辺りまでの裸身がフィルムに焼き付けられる。
華奢な肩、豊満で上向きの双つの隆起、初々しい乳頭、魅惑のウエスト、縦長のヘソ。美奈子が日頃、服の下に隠して他人の眼には触れさせない女の秘密が、フィルムという形に変換され、安西の手の内に転がり込んできたのだ。
が、美奈子最大の秘密は、いまだ安西の目にもカメラのレンズにもその姿をみせていなかった。やはり窓の敷居が邪魔をしたのだ。あと一、二歩、美奈子が窓に近寄れば、両の太ももと下腹部が形成する三角形の丘の部分が露出するのだが。
――あと数歩、裸のまま窓に近寄ってくれ!
安西は心の中で懇願する。しかし美奈子は彼の期待を裏切る動作をした。かがみ込んでバスタオルを拾う仕草をする。そして美奈子が上体を起こしたときには、片方の手にそれが握られていた。
安西は落胆した。美奈子は再びバスタオルを身体に巻きつけるだろう。バスタオルを巻いてしまえば、たとえ窓に近寄っても美奈子の肝心の部分は布に隠され、眺めることも撮影することもできない。
「うっ!」
またしても美奈子は安西の予想外の行動に出た。なんとバスタオルを手に持ったまま、全裸の姿を窓に近づけたのである。
そして――とうとうその瞬間が訪れた。
美奈子の女の茂みが窓の敷居の上へ姿を現したのだ。小判形をした淡いくさむらを乗せた三角形のなだらかな丘の部分が、安西の目に飛び込んできた。
しかも、奇妙なことに、窓ガラスの前に立った美奈子の裸身が明るく発光したのである。そのため身体のディテールがクッキリと映し出された。
本来なら天井の照明を背にしているのだから、逆光にならなければならない。
逆光では美奈子の身体の前面は影になるはずだ。
これはすでに述べたように、偶然のもたらした産物だった。窓の横に置かれた姿見が、天井の明かりを反射して美奈子の身体を斜め前方から照らし出したのである。いわばプロの写真家が撮影時に使用するレフ板と同じ働きを、姿見は務めたのだ。――美奈子にとって大変不運な、安西にとって大変幸運な、偶然の出来事だった。
美奈子の肉体はその全貌を安西の前に晒した。
安西はシャッターを切る。再びモータードライブの乾いた動作音が立て続けに周囲に響く。
すぐにカーテンが引かれるものと覚悟したが、なぜか美奈子はすぐにはそれをせず、窓ガラスの前で棒立ちになっている。
――何をしているんだ?!
疑念が脳裏をよぎるが、チャンスはチャンスだった。安西はバズーカ砲のような高級ズームレンズを操り、美奈子の下半身の暗がりをファインダーのど真ん中に捉えると、ぐっと倍率を上げた。
ぐんぐんと美奈子の女の部分が拡大される。ファインダーいっぱいに楕円形の茂みが映し出された。高級ズームレンズの冷徹な目は、秘毛の一本一本に至るまで、克明に解析してしまう。
三回目のシャッターが切られ、モータードライブが作動、美奈子が夫以外に決して見せることがなかったであろう秘所のたたずまいを、フィルムの上に次々と記録していった。
その直後、美奈子の手によってカーテンが引かれた。寝室の内部と外部は遮断されてしまう。もう部屋の中は見えない。
安西は、それを確認すると、今まで呼吸を忘れていたかのように、長い空気を吐いた。いつの間にか体中が汗で濡れていた。